人間性の発達に関して重要な仮設を提示している
自然淘汰というとき、現代のゲーム理論を使うと性選択は不可避的に大きな役割を果たす。芸術、音楽、ユーモアなどの一見してあまり自然環境からの淘汰に無関係に近いものは、確かに性選択なのかもしれない。
私が個人的に面白いと思うのは、科学という思考方法ではなくて、神話や占い、詩的な表現のほうが女性には受けるという事実である。
おそらくはこれだけでも十分に性選択による進化を疑わせるのではないだろうか。今後の研究の蓄積がますます待たれるすばらしい仮説の提示である。
内容は文句なし!! ただし...
内容は文句なしにスバラシイ.こんなに明晰で,ユーモアに溢れ,ためになる本は,そうザラにあるものではない(おそらく長谷川真理子さんの訳もよい).著者は抜群に観察力が優れ,かつ,非常にバランスの取れた視点をもっていて,ヒトの進化に関する多くの錯綜した事実を総合している.この点で,例えば S. Pinker の『心の仕組み (上, 中, 下)』のような,かなり一面的な心と言語の進化の理論に対する一種の解毒剤として有効であると思われる.この本にはタダ一つだけ,非常に奇妙な「玉に瑕」的欠陥がある.それは I, II 巻の分冊なのに,I 巻の原註が II 巻の最後にしかないのだ!!! これは明らかに理不尽だ.いったい何のために二分冊にしたんですか
芸術は性淘汰の産物なのだ
ヒトの心理的な特徴を性淘汰の観点から論じた本.長谷川眞理子先生の訳も良いです.前半部分はきわめて良質の性淘汰理論の総説となっている.この部分だけでもクローニンの「性選択と利他行動―クジャクとアリの進化論」,リドレーの「赤の女王」を越える良書といえる.さらにヒトの優しさ,機知,芸術を性淘汰されたものと論じる部分は新鮮.一部勇み足の部分はあるものの,大半は非常に説得的.まさに目から鱗が落ちるような感動を味わえます. やはりダーウィンはまたも正しかったのか(同時代のほとんどすべての学者は性淘汰すら理解できなかった.しかしダーウィンはヒトの性淘汰とその影響について深く考察している)という点でも感動的.
岩波書店
恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (2) 人が人を殺すとき―進化でその謎をとく 人はなぜ感じるのか? 精子戦争―性行動の謎を解く 喪失と獲得―進化心理学から見た心と体
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